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二十一世紀の湯治旅 -三泊四日で行く三朝温泉 –
【前説】伝説が物語る三朝温泉の「コンセプト」

  • 鳥取・三朝温泉の発祥は今から八五〇年ほど遡るそうで、元湯の発見にまつわるエピソードが記憶と共に伝説となって語り継がれている。
    そのむかし。源義朝の家臣に大久保左馬之祐という方がおられて、五年前の平治の乱で滅んだ源氏の再興を祈願しに霊場・三徳山へお参りにこられた。
    祈願を終えての帰り道、三朝の里で大きな楠の根元に全身真っ白の老狼がまどろんでいるのを見つけた左馬之祐は、腕に自慢の弓で射殺そうと矢をつがえたものの、ふと、「神仏に祈願した身で殺生などしてよいものか?」と思い直し、白狼をそのままにして立ち去った。
    その夜のこと。妙見大菩薩が夢枕に立たれ、「あの白狼は長く私に仕えてくれている忠実なる『使い』。助けてくれた礼をしたい」。そして左馬之祐はこんなお告げを聞く。「あの楠の株根を掘ると湯が湧き出る。その湯で人々の病苦を救ってあげなさい」。
    翌朝、半信半疑で大きな楠の根元を掘ると、お告げ通りに透き通ったお湯が、こんこんと湧き出てきた。左馬之祐は、その一部始終を里人たちに語り、これを「株湯」と名付けたのだという。 株湯は三朝温泉郷の源泉となり、今もこんこんと湧き続け、飲泉用、あるいは日常の煮炊きに使う生活用、はたまた公衆浴場の湯としても地元の人々をはじめ、遠来から訪れる湯治客らを癒し続けている。

  • 「その湯で人々の病苦を救え」。妙見大菩薩の啓示こそが、三朝温泉が長きにわたって掲げてきたそもそもの一大コンセプトであったのだ。

    ↑850年間、こんこんとわき続ける株湯。妙見大善菩薩からのありがたい贈り物である↑850年間、こんこんとわき続ける株湯。妙見大善菩薩からのありがたい贈り物である

哺乳類は温泉好き?

  • さて、「湯治」とは読んで字の如し、温泉を使った治療行動の総称である。
     お湯に浸かることで得られる開放感と実際の温浴効果がからだにたまった疲労を取り除き、消化器系の働きをも活性化させて食欲増進を図る。それは古からの生活の知恵だったともされている。神話の時代から「温泉」の存在は知られていて、『出雲国風土記』にその記述が残っている。
     さらに温浴がもたらすリラクゼーションは、「母の胎内にいた記憶が呼び覚まされる」からだという仮説を立てた研究者もいる。ヒトの場合のあの十月十日は、あらゆるものから守られた至福の境地であり、羊水ならぬ要塞の記憶。それを呼び覚ます引き金となるのが「湯」の温度だというわけだ。健康な母親の羊水は体温よりちょっと高めで安定していて、至極単純に言ってしまえば、ヒトをはじめとする、陸上での移動能力を持つ哺乳類のほとんど……猿や牛や馬や狸や狐も、なべて温泉好きかもしれない、との持論を展開している。
     飛鳥時代に生きた有間皇子や斉明帝も「湯治旅」を好んだというが、時の権力者に許された「バカンス」という意味合いが強い。それが庶民の間に広まるのは、それから千年以上後の江戸時代中期以降で、五街道が整備され遠方との往来が容易になったというのがその理由の一つ。

  • さらに時代が進み、「お伊勢参り」に代表されるように、土地(人別帳)に縛られていた人々が「旅」を楽しむ庶民に変貌していく。
     明治・大正・昭和の時代は、与謝野晶子・鉄幹夫妻をはじめ、志賀直哉、斎藤茂吉、島崎藤村などの文人墨客が訪れては、三朝の湯と温泉街の風情を絶讃し、またそうした評価がさらなる評価を呼び、多くの湯治客を引き寄せることになった。
     ただし、その頃の湯治客は三泊四日などという短期間ではなく、少なくとも一週間以上の滞在を「湯治旅」と呼び、しかもその多くは食事療法も兼ねた「自炊式」であったと言われている。  現在、三朝には大小合わせて二七の保養旅館があり、昔どおりの自炊滞在型から大型ホテルスパタイプなど、自分の体調や既往症に合わせた「湯治」のスタイルを選べる環境が整っている。温泉街から車でほんの一〇分の距離に岡山大学病院三朝医療センターがあり、治療上の助言を受けることもできる。
    俳優の植木等さんは、一〇年ほど前に罹患した肺気腫の治療にと三朝に足繁く通われる湯治客のお一人であったそうだ。平成一九年三月、前立腺がんを併発され、八〇歳の天寿を全うされたという(合掌)。

  • ↑立派な看板、というより扁額である。右から「株湯」と詠む。世界のラジウム屈指のラジウム含有量を誇る↑立派な看板、というより扁額である。右から「株湯」と詠む。世界のラジウム屈指のラジウム含有量を誇る
  • ↑向かって右が女湯、左が男湯。入場料は200円。せっけん、シャンプーも自動販売機で売られている
↑向かって右が女湯、左が男湯。入場料は200円。せっけん、シャンプーも自動販売機で売られている
  • ↑古き良き温泉街の佇まい。射的場はなくなったが2軒のヌードスタジオは今も健在である↑古き良き温泉街の佇まい。射的場はなくなったが2軒のヌードスタジオは今も健在である

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